声優・岡本信彦「キャラクター演技の基本は、台本を徹底的に読み込む読解力」

声優・俳優の「キャラクターを演じる仕事」に焦点を当て、仕事におけるマインドを聞く撮り下ろし連載。今回は、主人公、ライバル、天才肌、個性の強い多彩なキャラクターを演じる声優・岡本信彦にインタビュー。どこか飄々としながらも芯のブレない姿からは、15年のキャリアで培われた、独自の理論と発想が伺える。
Interview&Text 白峯アサコ(Mahio) Photo Photo 井上依子 Hair&Make Yurina Styling 青木紀一郎
岡本信彦

岡本信彦プロフィール
東京都出身。10月24日生まれ。『とある魔術の禁書目録』一方通行、『青の祓魔師』奥村燐、『TIGER&BUNNY』イワン・カレリン、『ハイキュー!!』西谷夕、『僕のヒーローアカデミア』爆豪勝己など主要キャラを務める。他、Kiramuneにてアーティスト活動、YouTubeチャンネル「セイユーチューブ」でも精力的に活動を行う。

目次

“盤上から王将を消せば負けない”メンタルリセット術

―――声優キャリア15年目となる岡本さんが、声優を目指したきっかけを、改めてお聞かせください。
小学生の頃は将棋の棋士を目指していましたが、中学生の頃にはいつの間にか声優を目指していました。もともとアニメが好きだったのと、将棋の反動もありました。将棋は算数や数学と同じで明確な結果が数字で現れるものです。数学は得意だけど、国語のように感性で戦う類のものもいいよな、と。


―――真逆なものに興味が出た、と。
もちろん、アニメが好きで、お芝居にも興味があったのが一番の理由です。中学2年の頃に目指し始め、高校の時に養成所に入りました。親には当然、難色を示しましたね。親からしたら、現実味のない夢を語ってるようなものですから(笑)。なので、大学までは卒業すること、20歳までに声優になれなかったら諦めるという約束で、そこからは学校の勉強とバイトと養成所を全力で頑張ることにしました。養成所の学費は親に貸りて、バイト代で返済しました。


―――将棋の棋士になるのも同じかそれ以上に厳しい道に思えますが(苦笑)。
僕的にはもっと無理だったと思います!(笑)将棋は、めちゃくちゃ厳しい世界です。声優ももちろん厳しい世界ですが「オーディションは落ちて当たり前」と言われたりもするので、将棋の勝負よりメンタル的にはマシに思えます。


―――やはり、将棋の経験はメンタルを保つのにも役立っていますか?
役立ってると思います。ファンの方からもなんでそんなにメンタルが強いの?と聞かれますが、僕の考え方は「ルールを変えちゃえばいい」です。本当に辛い時は、自分の王将駒を盤上から消してしまうのです。すると、相手は王手が取れなくなって勝負がつかなくなり、将棋とは別のゲームになってしまう。ルールを変えればゲームも変わる。そうすればメンタルが傷つかなくなるので。


―――盤上のルールを変えてしまうという発想は、柔軟で面白いですね。岡本さんは将棋がテーマの『3月のライオン』や『りゅうおうのおしごと!』にも出演されていますよね。
 『3月のライオン』で演じた二海堂晴信は作中の物語を明るくするコミカルな人物として描かれています。主人公の桐山零が、リアルな苦しみやもがきが描写をされているので、それに対する光のような演じ方をしました。二海堂は演じていて楽しかったですね。棋士たちのリアルな葛藤や苦しみが描かれた、面白い作品であり、見ていて辛い作品でもありました(苦笑)。
岡本信彦

オーディションは自身のキャラ解釈プレゼン

―――声優を目指していた子供時代、やってみたいと思ったキャラは?
 『SLAM DUNK』の流川楓が憧れだったので、レコーダーもスマホもない時代の岡本少年は、公衆電話から自宅の留守電に流川のセリフ「どあほう」を何十回も録音して、自分で聴いてみたんです。その自分の声が思った以上に高くて、クールなキャラを自分がやることを断念した思い出があります。


―――留守電で録音! 少年時代の斬新な録音手段に驚きです(笑)
ありがたいことに今では強くてクールな役もやらせていただけるようになりましたが、演じるのは難しいですね…。僕の場合、やりやすいのは感情の幅が大きいキャラです。怒ったり泣き喚いたり、感情を爆発させたキャラ。ヒロアカの爆豪勝己は、カッコいい役どころではありますが、血管が切れそうな熱血演技をするのでやりやすいですね! 


―――演技を作るにあたり、意識したりすることは?
今では理論的に何パターンも演技を考えて作りますが、新人の頃はもっと感性に任せてやってました。あるアニメの第1話の収録で、自身が発する感情や反応をそのままキャラのものとして演じようとしましたが、収録時に「そのキャラは今どこにいて、何を思って、誰に対してどんな目的で言葉を発したの?」と質問攻めにされた時、全く答えられなかったんですよね。


―――俳優や声優の演技の基礎訓練でも行われる質問ですね。
先輩たちにも「感性だけで演技してしまうと、1つのキャラしかできなくなる」とも言われ、2話目以降の収録では台本を読み込み、状況や感情などのメモをたくさん書き込んでいきました。ある先輩の方に言われた「自然に演じようとしすぎているから、もっと魅力的に。もっとキャラの魅力を考えてあげなさい」は今でもずっと響いてます。


―――キャラの魅力を考えてあげる、素敵な言葉ですね。
「このキャラの魅力はここだ」と思うのは演技においても重要ですが、それだけの演技では自分のエゴが強くなりすぎてしまう。自分なりの「このキャラはここが魅力で、自分ならその魅力をこう表現する」という解釈をプレゼンテーションするのが、役のオーディションですから。


―――オーデションはキャラの解釈プレゼンの戦いとも言えますね。
なので、落ちちゃったら「他の人の解釈の方が合ってたんだな」と思います。もしくは「きっとスケジュールの都合だ、うん」そう自分に言い聞かせて次に行きます(笑)。


―――乙女ゲームなど女性向けコンテンツでもトリッキーなキャラを演じることも多いですよね。
ヒロインに罵言雑言吐いて作ってもらった弁当捨てるとんでもないツンデレとかいましたね! このキャラ、本当にこれでいいの!?って心配してたのに人気が出て、何が支持されるか本当にわからないなと思いました(笑)。現実にいたらかなり厄介なキャラのほうが、ゲームの中で愛でることができるんでしょうか。強い言葉で凄んだあとちょっとだけ甘い空気も入れる、そういうジェットコースターのようなスリル感を求めているんですかね。なので、乙女ゲーなどのコンテンツでは意識的に吊り橋効果といいますか、ハラハラ感を与えられるように演じてます。
岡本信彦

キャラクター演技は最終的には読解力

―――声優としての自身の方向性が定まってきた時期は?
デビューから10年迎えようとした時期。自分に求められる演技を明確にすべき時期で、僕の場合はそれが、狂気をはらんだキャラや、二面性のあるキャラの演技の確立でした。ある程度キャリアを積んで名前を知ってもらえるようになると、「この人が演じるならこの役だろう」という認知バイアスもかかりますから。


―― 求められるスキルが上がり、認知バイアスもかかる。時には大きなプレッシャーになりますよね。
はい。ですから、感覚と理論の両方で考えながら演じられる技術を磨く、ナチュラルな演じ方もディフォルメした演じ方も、両方用意する。やり続けてきて気づいたことですが、キャラクターの演技を作り上げるのに必要なのは最終的に読解力、国語能力だなと。


―― 長編小説を、伝わりやすく短いあらすじに要約するような感じ?
そうです。キャラ自体の解釈、そして細かい挙動の演技一つ一つも。先ほど言った「誰が、どこで、何を、どのように」を正確に伝えられる演技ですね。ここで読解を間違えると、「解釈違い」になってしまう。それでいて、自分の持ち味がキャラクターの魅力になるように作る必要があります。


―――岡本さんは昔からライバルも主人公も演じていましたよね。
やはり主人公は演じるのが難しいです。少年漫画の熱血系の主人公は、考えるより先に行動することもありますよね。僕はその行動に理由を求めてしまい戸惑ってしまいがち。主人公キャラをよく演じている松岡禎丞さんや小林裕介さん、彼らは理屈抜きで演技に落とし込めるのだと思います。その点では、芯がブレず役割が明確なライバルキャラの方が僕はやりやすい。収録でも、ライバル役として主人公を超えようとすればするほど、主人公役も負けじと超えようとしてくる。これができると、いい作品になっていきますね。


―――共演者同士でぶつかり稽古するような、まさにライバル関係!
特にヒロアカはそうですね!山下大輝さん、彼は緑谷出久を演じるために生まれてきたような人ですが、一緒になって汗だくで、それはもう大変な収録現場です。劇場版二作目の時とかアフレコでも壮絶に戦ってました。目は血走るし、喉から血が出そうだし、10時間叫び続けてました(笑)。
岡本信彦

弱点や欠点も磨き上げれば唯一無二の個性

―――岡本さんは地声もエッジのかかったハスキーボイスですが、これは元からなのでしょうか?
実はそれ、最近も共演した方に「前は違ったよね?」って言われました。もともと高音になるとかすれる声でしたが、一方通行や爆豪で叫び続けてたらこうなりました(笑)。新人時代、その声の出し方だといずれ喉を壊すと言われ、治そうと試みましたが、結局この声に落ちついてしまった(笑)。無理に矯正しようとするより、自分にはそれが合っていたんですよね。偽物かもしれないけど、徹底的に磨き上げればいつか本物になるかもしれない。そう思っています。


―――かっこいい! 何かのキャラの台詞のようですね。
弱点と思われていた声質が、個性になりました。個性にできれば勝ちってことです。これは僕の考えですが、本物と見分けのつかない瓜二つの贋作を作れるのって、すごいことだと思います。「お前うるさいよ」と言われたら、もっとうるさくした方がいい、とマツコ・デラックスさんも言ってましたし。


―― 芸事の世界であれば大事な考え方ですね。ラジオやイベントでのトークも上手いですよね。
昔は先輩たちの言動を受け止めるので精一杯でしたが、今はトーク大好きですね。無理に面白くしようとしなくてもいいと割り切ってからは、トークが楽しくなりました。この年齢になったからこそ、相手の話を引き出すことができるようになったのだと思います。


―――最近はイジることも多いようですが、イジられるのは?
イジられるの好きですよ(笑)。小林裕介さんや遊佐浩二さん、イジるのが上手いんですよ。低音のいい声の人のイジりって、気持ちがよくて楽しい(笑)。逆に僕がイジる時は、相手の魅力とかかわいいところが視聴者の方に分かってもらえるように努めてます。


岡本信彦

自分自身が一番楽しめている状態だと人間は強い

―――YouTubeチャンネル「セイユーチューブ」でもご活躍中ですね。
YouTubeでの活動は、声優業とは全く違う感覚でやってます。「それ楽屋でやれよ」と言われそうな内輪ネタも、むしろYouTube向きな気がして、自由にわちゃちゃした方が楽しいものになるのかな、と。SNSには遠い存在の魅力と親近感の両側面があると思っているので、やるならガッツリやった方がいいと思っています。本当は毎日でも動画を上げたいし深夜配信もしたいくらい。


――― 「歌ってみた」で歌も披露されていますね。
あれは一つの作品としてお届けしていますが、普段ライブではできないことをふんだんに取り入れられるので楽しいです。セイユーチューブ上で名乗っている「N(エヌ)」はYouTubeをはじめ、ネット上で活動しやすいように作ったアバターのようなもの。すとぷりのメンバーの方とも仲良くさせていただいてますが、彼らから最近のトレンドの話なんかも入ってきていて、刺激をもらっていますね。


―――今後やりたいことや野望ってなにかありますか?
生のライブもいいですが、YouTubeなどのバーチャル空間で色々な効果を盛り込んでライブがやりたいです。朗読劇も続けたいですね。アフレコ現場とはまた違う、共演者同士での掛け合いができてお芝居の面白さを再認識できる朗読劇は、原点回帰の場です。最終的な展望では、自分でアニメを作りたいですね。自分でキャスティングをして、その人の声の魅力をより引き出す演出がしたい。叫び声の演技が好きな声優さんは何人かいるんですが例えば斉藤壮馬さん。彼はクールな印象の声ですが、そんな彼の泥臭い叫び声が好きなので、それを一発録りでやってほしいなーと。僕はもともと、声フェチなんでしょうね(笑)。


―――ここに書いたラブコールがご本人まで届きますように!(笑)
声優としては、ナチュラルな役、自然な演技を求められる役に改めて挑戦したいですね。さっき話した、「これまで培った演技でどこまで本物に見せられるのか」これを今の自分の技術で試してみたい。


―――自然な印象のキャラ、確かに岡本さんにはあまりないですね。
ないです! ほとんど濃いキャラばかりです。濃厚豚骨醤油ラーメン!みたいな。なのでオーガニックな塩ラーメンに挑戦してみたいです(笑)。


―――最後に、コスプレイヤーを含め、クリエイターや表現者を目指す人にメッセージをお願いします。
僕の座右の銘は「好きこそものの上手なれ」です。これはほんとそう思います。どんな仕事でも、何か一つでも好きなものがないと、続かないんじゃないかと。そして「楽しんだもの勝ち」です。なりたいものになろうとする、は人間の根源的な欲求だと思うのです。我々声優や俳優、コスプレイヤーさんも含め、表現者というのは、その可能性も欲求も無限大ですよね。何にでもなれる、というのは強いと思います。その時、自分が楽しんでいられることが一番強いし、たぶん一番幸せでいられる。大変なことがあっても人から「あなた幸せそうね」「脳内ハッピーだね」なんて言われるようになったら、それが一番じゃないかなと。人に迷惑さえかけなければ、自分が一番楽しめている状態でいられるようにする。他人からどう言われようが、自分自身の基準を見失わないようにしてほしいですね。

2021年8月発売COSPLAY MODE9月号掲載記事をWEB用に再掲しました。

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