声優・伊東健人 インタビュー「理論派と思われがちですが、本当は直感型の人間です」

さまざまな作品や番組への出演に加え、音楽ユニットやソロアーティストとしても活動する声優・伊東健人にインタビュー。

穏やかな口調と佇まい、柔軟なマインドと知性がにじむ語り口からは、独自の哲学が垣間見える。

Interview & Text:白峯アサコ(Mahio)
Photo:井上依子(YOL)
Hair&Make:Yurina
COSPLAYMODE 2021年1月号掲載記事

目次

人前に出て目立つのがあまり好きじゃなかった

伊東健人

伊東健人

東京都出身。10月18日生まれ。

主な出演作は『ヲタクに恋は難しい』二藤宏嵩、『ヒプノシスマイク』観音坂独歩、『2.43 清陰高校男子バレー部』小田伸一郎など。

テレビ番組やラジオへの出演、音楽ユニット「UMake」やソロアーティストなど幅広く活動中。

X(旧Twitter):@21s_ken
Instagram:@kent_110_va

――伊東さんはコスプレイヤーにも人気の作品への出演も多いですが、ご自身の演じたキャラクターのコスプレを目にすることってありますか?

はい、もちろんあります。SNSなどで見かけますし、アニメ「ヲタクに恋は難しい」では二藤宏嵩を演じたこともあり、関連イベントなどで公式コスプレイヤーさんにお会いするなど、仕事で目にする機会もあります。

趣味でコスプレされている方々の姿を見ることも増えて、すごく広がりを見せているんだなーと。コスプレは本当に通ってこなかった分野なんですよね。

 

――漫画やアニメ、コスプレなどへの興味は?

実は全然です(笑)。アニメやゲームはあまり通らず、学生時代は部活の野球や音楽の分野にいたんです。バンドも軽音部などには入らず、有志でマイペースにギターを弾いてるような感じでした。

……ですが、今思い出しました。一度だけ学祭でペ・ヨンジュンのコスプレさせられたことがありましたよ(笑)。

 

――なんと!

メガネかけてウィッグかぶって、マフラーして……今の今まで忘れていたということは、当時よほど恥ずかしかったんでしょうね(笑)。元々、人前に出て目立つのがあまり好きじゃなかったんですよ。

 

――そこから声優を目指すようになったキッカケってなんだったんでしょう?

大学3年生の頃ですね。当時、真面目に授業に出て単位をちゃんと取っていた大学生だったので、3年生頃にはちょっと時間に余裕が出てきてVOCALOIDの初音ミクを触って曲を作ってみたり、仲間内で映画を撮ったりしていました。

これも音楽や映画映像にすごく興味があったと言うより、誘ってくれる仲間と一緒に活動するのが楽しくてやっていた感じでした。それがその後の仕事につながるとは全く思ってなかったし、仕事にするつもりもなかったんですよ。僕の性格をよく知る同級生たちも、まさかコイツが声優になるとは……と驚かれます。自分でも思ってませんでした(笑)。

声優を目指すようになったキッカケというか、当時は就職氷河期だったのもあり、就活がなかなかうまくいかなかった。今思えば、それらもいろいろ積み重なって、その道を進むようになったんでしょうね。周囲には伝えず、大学を卒業する頃には養成所に通う準備をしていました。

 

――専門学校には行かず、養成所から声優の勉強を始められたんですね。

養成所では、周りはすでに専門学校で声優の勉強をしている人ばかりだったので、その人たちを見ながら実地で学んでいきましたね。

声優の知識や経験はなかった代わりに、それまでの学生時代の経験で、どこを押さえて学んでいけばいいかを見極めることができたんだと思います。

 

 

役作りは比較的感覚でやってるかもしれない

伊東健人

――学習能力や学生時代の活動経験値が活きたんですね。

そうですね、語り口がこうなので理論派と思われがちなんですが、本当は直感型の人間です(笑)。右脳で直感的にインプットして左脳で理論的にアウトプットしてるのかも。

 

――役作りでも、そういった傾向はありますか?

役作りは比較的感覚で作っているかもしれません。そのキャラクターの年齢、体格、目線……そして姿勢や佇まいから想像して作っていきますね。

 

――具体的なキャラクターで挙げると?

『ヒプノシスマイク』の観音崎独歩の場合、彼は姿勢が良いわけではないので、それが声にも現れるだろうと考えました。猫背だと、常にやや見上げるようにして話すのではないかなと考えて役作りをしていきました。

 

――それは実際の収録時にも猫背になったり?

なりますね(笑)。僕はアフレコの際に、そのキャラクターの姿勢に実際になって演じてしまいます。教師キャラの場合はその反対に、背筋がピシッとして姿勢が良く、そして若干上から目線で話すイメージで演じたり。

 

――アフレコでの演じ方は声優さんそれぞれ特徴が出そうですね。

キザなセリフ回しや女性向けの甘い言葉を使うキャラクターでは、演じている時は集中して演じられるのですが、カットがかかると、もう恥ずかしすぎて変な顔をしちゃいます(笑)。これは割とみんなそうですけど。

 

――演技モードに切り替わる瞬間ってどこなんでしょう?

ノリと勢い、ですね。憑依型の演技をしてる感覚はないのですが、イベントやライブなどで人前に出る際は場の雰囲気で切り替わる感じです。乗れるものには乗ってしまえ!と。

 

――人や場のテンションに乗れるところは、学生時代の活動スタイルにも通ずるものがありますね。

そうかもしれません。良い意味で自主性がないんですよ(笑)。ですがノリはいい方だと思います。友達に遊びに誘われると、すぐ行っちゃいます。

 

 

人のつながりが広がることに楽しさを感じる

伊東健人

――内気な印象がありましたが、アクティブなんですね。

はい、時間ができたら友達と遊びに行っちゃいます。家で寝てるより人と話してたい。人と接してないと死ぬタイプです(笑)。

内気なんですけど卑屈ではない、アクティブさはあると思います。自分の人生経験として、常に人と何かしてたいし、人のつながりが広がることに楽しさを感じます。

 

――自身で演じやすい・演じにくいキャラクターってあったりしますか?

演じにくいキャラクターは『アイドルマスター sideM』の硲 道夫かな。彼は間違いなく「声優・伊東健人」という存在を引っ張り上げてくれた、付き合いの長いキャラクターなんですが、演じれば演じるほど分からなくなる人物です。

冷徹な数学教師で、人とのコミュニケーションは得意ではないし場を盛り上げたりもしない。最近ではディレクターから「会話ができちゃっているから会話をしないで」「もっと機械のように」と指摘され、果ては「芝居ができなかった4〜5年前を思い出して」と言われます。

 

――確かに、それはかえって難しいですよね!

4〜5年前の自分は当時精一杯で演じていたんでしょうけど、今は「芝居ができない」芝居をしないと硲道夫が演じられないということです。これも自在にできるようになっていくのが声優・役者としての次のステップなのかなと思って向き合っています。

 

――自身の成長の指標になるキャラクターということですね。

『ヲタ恋』の二藤もそうです。周りから見て分かりづらい人物ですね。「何を考えているのかわからない人物」ですが本当に何を考えているのか視聴者に全く伝わらないのではキャラとして成立しない。棒読み風に聞こえるセリフほど難しいと痛感します。

 

――逆に演じやすいキャラといえば?

観音坂くんですね。彼はほとんど迷わずに演じられました。サラリーマンという作中で一番普通な人なのに振り幅が極端なので、こうかな?と思って演じたイメージがとてもすんなり合った。ディレクションもほとんどされなかったので、自分発信の演技要素がそのまま採用されています。

 

――脳の血管が切れそうな、あのシャウトも?

そうです(笑)。当初はあそこまで叫んでいる設定ではなかったはずなんです。せいぜい、夜の新橋で酔って喧嘩しているサラリーマンの怒号……くらいだったはず。やり過ぎたら止められるだろうと思って、振り切ってヘヴィメタル的なシャウトをしてみたらOKが出ました(笑)。

あのシャウト、実は地声で声を張り上げるよりも喉に負担がかからないので、みなさんが思ってるより出すのはラクなんですよ。

 

 

負けず嫌いなので、行けるとこまで行ってみようと

伊東健人

――演技スタイルや声質が合致した、まさに当たり役だったんですね。

今まで演じてきたキャラ、例えば『魔法使いの約束』のファウストなど、ネクタイしてたりかっちりした服装や先生が多いですよね。自分の声の暗さは武器になるんじゃないか、と養成所時代からなんとなく思ってたので、それが活かせてるのかな。

 

――朗読劇にも精力的に取り組んでらっしゃいますよね。

朗読劇は、もはや自分の中で研ぎ場のようなものかな。普段、スタジオでのアフレコ収録が声優の主な仕事ですが、朗読劇は観客がいます。観客がいる舞台で演じるって、芝居の本質だと思うのです。

アニメーションのアフレコと違い、共演者や観客に直に投げかけ、演じることでその舞台が完成します。そこには普段の声優業とは違った難しさとやりがいがあります。ですから朗読劇の仕事が終わった後は、しばらく芝居がうまくなった気になります(笑)。

その後のアフレコ現場でも技術や演技の幅で、新しく試せることが増えたりするので、これからも朗読劇は定期的にやっていきたいです。

 

――自己研鑽の場なんですね。では、声優業から発展して今後挑戦していきたいことは?

これは言ってもいいのかな……ミュージカルです。ミュージカルって、演技、歌、ダンス、ビジュアル、あらゆる要素が必要で、一番難しいものだと思っています。だからこそ挑戦したいと思ってしまいます。

 

――元は人前に出るタイプではない、自主性がない、ともおっしゃっていましたが、攻める時は攻める姿勢を感じます。

最近の声優がこんなに表に出る職業だと知らなかったので、もし知っていたら目指してなかったでしょう(笑)。ですが、声優として仕事をするようになったからには、じゃあやってやる!と。負けず嫌いなので、ここまで来たら行けるとこまで行ってみよう、と思うようになったんです。

 

――元々声優にあまり興味がなかったからこその柔軟な考え方かもしれませんね。では、声優になって良かったなと思うことは?

あまり思いつかないんですがひとつだけ。居酒屋で声が通せる! 大きな声、ではなく通る声の出し方ができますよ。

 

――声優を目指してる皆さん、ぜひご参考に!(笑)

 

 

目標は「声優としての格を上げていく」こと

伊東健人

――仕事に対しての、自身のこれからの目標は?

「声優としての格を上げていく」、これに尽きます。声優としてキャスティングされたとき自分も周囲も納得する、不足のない実力をつけていくことです。

 

――人前に出ることは仕事として向き合ってる、元は人前に出たくない方と理解してあえてお伺いします。しつこいようですがコスプレは……

仕事案件でやってほしいと言われますが、極力やりたくありません!(笑)。今でも声優仲間にハロウィンとかコスプレに誘われたりしますが、カメラマンか荷物持ちで、と断ってます(笑)。

 

――そう言われるから余計にみんな引っ張り出したくなるのかもしれません(笑)。COSPLAY MODEにはコスプレイヤーや将来声優や俳優を目指している読者も多くいます。最後に、そんな読者へ伊東さんからメッセージをお願いします!

「時代に乗り遅れないこと」ですかね。アンテナを張ること。声優業界も芸能も、コスプレイヤーさんたちを取り巻く業界も今は過渡期で、変わっていくと思います。

声優だけでなくYouTuberやVTuberも地上波のテレビに登場するようになって、各業界にパイオニアが現れてますよね。これまでの固定観念を壊して前進していくことは、僕たちも努力して戦っていくべきところじゃないかなと。

 

――アンテナを張り、固定観念を崩していく。これは今後のあらゆる仕事や活動に通ずる大事なマインドなのかもしれません。たくさんのお話をありがとうございました!

伊東健人

 

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